予備知識が“きく”力の源

前回のコラムでは「基本技能を磨いているか」と題し、ビジネスパーソンには、“読む”“聞く”“話す”“書く”の４つの技能を磨くべきだと主張した。“読む”技能については前回解説しているので、今回は、“聞く”について論じよう。
まずは、“聞く”“話す”についての参考文献として、扇谷正造著、『聞き上手・話し上手』、講談社新書をお勧めする。初版が１９７９年で、私が購入したのは１９８８年発行の２４刷版だ。初版から、約３０年、購入から２０年が経過している古い本だが、この機会に改めて読み直してみると、内容に全く違和感はなかった。
扇谷さんは、聞き上手とは、

１）相手の目を見つめてきく
２）軽いおどろきの表情をともなったあいづちをうつ
３）相手について予備知識をもって接する
の３つにまとめている。

“きく”には、“聞く”のボンヤリ“きく”と、“聴く”考えながら“きく”がある。聞き上手とは、もちろん“聴く”力を養うことで、そのためには、目を見て、あいづちをうち、予備知識をもてというわけだ。
私が、この中で最も強化すべきだと考えるのは、予備知識をもつである。自分ができていなかったことを我が子にアドバイスするのは親の常なのかもしれないが、先日大学へ通う娘に次のようなことを言った。「テキストにはひと通り目を通して、分からないことや納得できないことを自分で調べてから授業に臨むと勉強になるぞ」と。要するに、ある程度の知識がないと、教授の話は理解できず何も身につかないと言いたかったのだ。結局、聴こうとしても、聞くしかなくなってしまい、１０分も経過すると睡魔に襲われるはめになる。物を買うにしても同様だろう。例えば車を購入する際にデーラーへ行き、営業マンから「どんな物をお求めですか」と尋ねられて、「とにかくいい車をください」の一点張りで、排気量や燃費、デザイン、用途などの要望を出さなければ、営業マンは顧客の趣味趣向がわからず困り果てるだろう。 相手の目を見るのと、あいづちをうつのは、「あなたの話を聴いていますよ」という信号を送り、より価値のある情報を話し手から引き出す行為なのだが、本心からのあいづちは、本当にその話に関心をもっていなければできない。演技で目を見つめたり、あいづちをうっても、相手にはたやすく見抜かれてしまい、かえって不快な思いをさせてしまう。
以前、海外へ出張した際に、同行者から「娘さんにどんなお土産を買われるんですか」「娘さんも年頃だから、欲しいものがたくさんあって、平堀さんが帰るのを楽しみにしているでしょうからね」と言われて、ビクッとしたことがある。娘が欲しいものを知らないことに気づいたからである。これでは、娘から「お父さんと話すと楽しい」と言われるはずがない。
“きく”力を高めるには“予備知識をもつ”ことであると、あえて一つに限定すると能力を強化しやすいのではないだろうか。
会社や買い物、家庭内に至るまで、予備知識をもって会話に臨めば、相手が喜んでくれるイメージが持てるだろう。ただし、知識を得たことで必要以上に話してしまうと、結果は酷いことになってしまう。この解説は、次回にさせていただこう。

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