幸せは、今を堪能すること

５月は母の誕生月で、７８歳になりました。

私が思いついた誕生日のプレゼントは、親子水入らずのひと時を過ごすこと。

弟と私、そして、母の３人で都内を散策する企画を立てました。

“親子水入らず”が、この企画のミソです。

私が結婚してから今日まで、お袋と二人きりでどこかに出かけたことは、

数える程度しかありません。

いつも、子ども（孫）を交えての外出、会食で、話題の中心も子ども（孫）たちでした。

これはこれで幸せなことなのですが、

お袋を主役に据え、二人の息子がお袋を囲み、ゆったりと過ごす。

こんなひと時も貴重なのではと、閃いたわけです。

 

散策コースは、上野から浅草。

途中合羽橋を通り、掘り出し物がないか物色。

すると、お袋の目が、箸の陳列棚に奪われたのがわかりました。

そこで私は、「お母さん、今日は、誕生日祝いだから、好きなものを選んでよ」と

箸の購入を勧めました。

お袋は、嬉しそうにして箸を手に取り選びます。

「どれがいいかしらねぇ」と言いながら、箸を選ぶ仕草に、

“値札のチラ見”が入ります。

「お母さん、値段は気にしないで、気に入った材質、絵柄で選んでよ」と言うのですが、

母は、「だってあまり高いと悪いじゃない」と遠慮します。

「箸なんだから、高いといってもたかが知れているので、気にしなくていいよ」

といったやり取りを繰り返しながら、母は、一膳の箸を選びました。

値段は、１，３００円。

外で待っていた弟に、母が

「剛に、お箸を買ってもらっちゃった。いい色でしょう」と自慢し、

弟も、「へぇ〜、可愛い箸だね。よかったね」と合わせます。

 

“値札のチラ見”が習慣になっている母を目の当たりにして、

お袋は、こうやって家計をやり繰りして、自分たちを育ててくれたんだな

との思いがこみ上げ、いろんなことを思い出しました。

 

散策をはじめて早々に、このような感傷に浸ったので、

その後の食事時には、過去の思い出話に花が咲くのだろうと想定していました。

そして、母との同居生活も長いので、妻（嫁）への愚痴の一つでも出るのかと・・・。

 

“親子水入らず”になってお袋が口にしたことは、

・春に行ってきた石垣は、海が真っ青で良かったわよ。

・今月旅行した利尻・礼文島では、ウニが美味しかったし。

・そうそう、最北端の稚内にもはじめて行ったけど、この季節なのに寒かったわ。

・拓磨は、修行に出てもうすぐ２ヶ月になるけど、よくやっているわね。

・陽（みなみ）も、朝早くから夜遅くまで仕事をしていて頑張っているけど体大丈夫かしら。

・アッくんとのんちゃんは、今週末の土曜日が運動会だけど、何に出るの。

・剛とかおるさんも、ジョギングを毎日続けて大したものね。

と、私の想定は、大外れで、

過去ではなく、まさに、今の出来事ばかりでした。

 

“親子水入らず”のひと時を楽しんでいるお袋の姿を見て、

幸せは、過去や未来にあるのではなく、今にある。

ことを、改めて教えられました。

 

駒形どぜうで、お昼を食したのですが、

ビールを片手にどぜう鍋に舌鼓を打っていると、

母が、「もう１杯ビール飲んじゃおうかしら」と、お代わりを要求。

「だったら、我々はビールをチェイサーに、ます酒飲んじゃいますか」と勢いづき、

弟と乾杯！

「いや〜、どぜうは、昼食べるのが最高だね」と、

呑んべえの、わけのわからない屁理屈をこねながら、

お袋の今を楽しんでいる話を酒の肴にし、心地よく酔っ払いました。

 

“今を堪能する”

そんな幸せなひと時を、逆にお袋からプレゼントされてしまいました。

 

これからも、お袋から

“今を堪能する”プレゼントを贈ってもらいたいので、

“親子水入らず”の都内散策を、続けていきます。

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