#113
Harassment or Yell ~ハラスメントか、エールか~
「小川さん、最後だよ! 出し切って」
「もっと走れるよ、ペースを上げて! 上げて!!」
6回目の出場となった宮ケ瀬湖24時間リレーマラソン。
1周1.8㎞の周回コースを1チーム15人を上限として
24時間で何周できるかを競う私たちの真夏の恒例行事。
今年の私のラストランで仲間たちから掛けられた声援と檄。
皆の期待に応えたい気持ちは十二分にあるものの、今年で4回目の年男、
すでに23時間以上も痛めつけてきた身体は
なかなか言うことを聞いてくれず、脚は上がりません。
◆
苦るしさで顔は歪み、
皆の前を通り過ぎたら、少しスピードを落とそうかなと思った時、
なんとキャプテン・カズと応援団長・李さんが並走を始めました。
「マジか!」
これで密かに抱いていたスピードを落とすという邪なプランは消滅。
歯を食いしばって走るしかありません。
(ホント、久しぶりに歯を食いしばりました)
カズと李さんの並走がどれくらい続いたのか、正確にはわかりません。
とっても苦しかったので100mくらい一緒に走ったような気もしますが、
冷静に考えると20mくらいかもしれません。
並走してもらったことで、
中弛みが最小限に食い止められ、残り300mの地点を迎えます。
◆
ここで次の刺客が待ち受けてました。
チームのエース、三戸!
「なぜ、お前がこんな誰もいないような場所に!!」
「小川さん、ラストでーす。上げていきましょう」
握りこぶしくらいしかない小さな頭、
屈託な悪戯心のかけらも感じさせない笑顔から繰り出されるごもっともな正論。
「ラストはスパート・・・」
「わかってるけど、一杯一杯なんだよッ」
というちょっと情けない気持ちを込めて、苦り切った顔で視線を送った瞬間、
彼も並走を始めたのです。
彼は学生時代、早稲田大学のアンカーとして箱根駅伝に出場し、
区間3位の記録を持つエリートランナー。
こちらの苦しさを余所に軽やかに走っていきます。
こっちはついていくのがやっと、
いや、正確にはついて行けていなかったでしょう。
◆
ということで、ラスト1周は、
随所に仲間の熱いサポートを受けて7分11秒のタイムで
次のランナー、「ちくわ」こと竹輪さんへ襷を繋ぎました。
毎年、ラスト1周は火事場の馬鹿力が出て、
タイムが上がるものなのですが、
今回は、その日のワーストから31秒も縮まってしまいました。
6年やっていて、ラストでこんなに縮まったのは初めてです。
これは間違いなく、仲間たちの声援とカズや李さん、三戸君の並走のお陰です。
◆
走り終わった後、力走する仲間たちを応援しながら、
「いやー、あの並走はハラスメントだね」と冗談を言いながら笑っていたのですが、
それを聞いていた仲間の一人、みなちゃんが、
「でも、小川さんのことを思ってやってるんですよ(笑)」って切り返し。
私は、みなちゃんの言葉を聞いて、
「ハラスメントとエールの際ってこういうことなんだな」って、
妙に納得してしまいました。
◆
冗談でハラスメントと言ったものの、
私は1ミリたりともそんな風に思ってはいません。
カズも、李さん、三戸君も何年も一緒に24時間を戦ってきた同志だと思っています。
走っている時は、口から心臓が出そうになるくらいしんどかったけれど、
彼らの檄(エール)と並走のおかげで、自分でもびっくりするような結果も出ました。
もし、並走された側が相手を信頼していなかったら、
臨むような結果が出なかったとしたら、
肉体的、精神的限界を本当に超えて、心が折れてしまったら。
そうなったら、どんなに「●●さんのことを思ってやっている」と言っても後の祭り。
ハラスメントとハードなエールは紙一重。
知識では知っていたけれど、この歳、立場になると
圧を与える側にはなっても、圧を受ける側になることはほとんどありません。
だから、この紙一重、ギリギリの感覚を味わうことができたのは大きな収穫。
最後の最後に、そんな実体験をした2017年の24時間リレーマラソン。
やっぱり、いろいろなことを教えてくれる最高イベントでした。