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人事評価制度の作り方|中小企業が「使える制度」に磨き上げる8つの工程

8月12日
読了時間: 26分

更新日:4 時間前

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この記事の監修 株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング(HMC) 監修:小川 晴寿(おがわ はるひさ/株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング) 中小企業の理念策定・浸透と、人事評価制度の「運用・定着」を専門に組織づくりを支援。理念浸透型人事評価制度「SHIMILE(シミル)」提唱者。

「結構な費用をかけて人事評価制度を作ったのに、あっという間に以前の鉛筆なめなめの状態に戻ってしまった」「コンサルタントの言う通り、定量的な業績評価を導入したけれど、ちっとも現場のモチベーションは上がらない」、 私たちは、中小企業の経営者からこうしたお悩みの声を数多くお聞かせいただいてきました。


先にお伝えしておきたいことがあります。


誰もが納得する“完璧な人事評価制度”は存在しません。


職能評価制度にも職務評価制度にも一長一短があり、成果主義が正しくて年功主義が間違い、ということもありません。


今、流行りのジョブ型雇用を前提とした制度を導入しても新しい問題が必ず発生します。


どのような制度が合うかは、業種・職種だけでなく、その会社のカルチャーや成長段階であったり、その組織の中で働く一人ひとりの仕事観によって変わるものなのです。


だから私たちは、「各社に合った制度を作る」のではなく、「各社に合った制度に磨き上げる」という言い方を大切にしています。


本記事では、私たちが実践している8つの工程に沿って、運用しながら“磨き上げていく”人事評価制度の作り方を解説します。




大前提:人事評価制度は「作る」より「磨き上げる」もの

野球のグローブに例えた人事評価制度のイメージ

人事評価制度は、野球のグローブに似ています。


買ったばかりのグローブは、ボールを捕るという機能は備えていても、革が硬く、まだ手に馴染んでいません。


そのため、ファンブルやエラーも起こりやすくなります。


しかし、何度もオイルを塗り、繰り返し使い込むうちに、グローブは次第に体の一部のように手に馴染んでいきます。


反対に、手入れを怠れば革はすぐに傷み、いつまでたっても手に馴染みません。


そして、自分の手に馴染んだグローブであっても、他人の手に同じように馴染むとは限りません。


人事評価制度もまったく同じです。


構築しただけで、社員が納得する評価制度が出来上がるわけではありません。


制度を運用する中で見つかる“バグ”を丁寧に一つずつ潰して、はじめて自社に合った制度に仕上がっていくのです。


ネットや書籍で紹介されている他社の成功事例や、大々的に宣伝されている評価パッケージをそのまま強制移植しても、自社の組織には定着しません。


人事評価制度の作り方を学ぶにあたり、まずはこの前提をしっかり押さえてください。


目指すべきは、「完璧な制度を完成させること」ではありません。


「運用を重ねながら、自社に合う制度へと磨き続けられる土台をつくること」です。


なお、そもそも何のために社員を評価するのか、人事評価制度の目的をどのように定めるのかについては、「人事評価制度の目的とは」で詳しく解説しています。




人事評価制度を作る「8つの工程」

人事評価制度を策定する8つの工程を示すプロセス図イメージ

私たちが人事評価制度を策定する場合、次の8つのステップでプロジェクトを進めていきます。


組織の規模や職種の数などにもよりますが、策定にかかる期間はおよそ8〜10か月です。


  1. 新人事制度のコンセプト・概要の設計

  2. 職責基準の定義(役割・責任・必要能力の明確化)

  3. 情意・能力の評価項目・評価基準の作成

  4. 賃金テーブルの作成

  5. 人件費シミュレーション

  6. 人事評価シートの作成(対象:全職種)

  7. 目標管理制度(MBO)の設計

  8. 評価者研修の実施(対象:管理職)

既存の制度がある場合には関連資料を読み込み、経営者・役員、管理職(=評価者)、一般職(=被評価者)、人事部門にインタビューをします。


インタビューの目的は、各階層が人事評価制度に何を求めているのかを明確にすることにあります。


ここで同じ方向を向いていてくれると良いのですが、そんなに虫のいい話はなく、たいていの場合はズレが生じています。


人事評価制度策定のプロセスは、各階層の認識をすり合わせ、このズレを解消していく作業でもあります。


人事評価制度の基本的な構成や導入時の考え方については、クレアスト株式会社の『人事評価制度の導入・再構築(中小企業・小規模事業者向け)』も参考になりますのであわせてご覧ください。




人事評価制度の作り方1| 新人事制度のコンセプト・概要を設計する

工程1のイメージ

最初に決めるのは、「この制度を通じて、どのような社員を評価し、どのような会社をつくっていきたいのか」というコンセプトです。


コンセプトが曖昧なままプロジェクトを進めると、その後の議論は評価項目や点数配分といった表面的な話に終始し、制度の軸が定まりません。


一方、コンセプトが明確であれば、議論が紛糾したり、方向性を見失ったりしたときにも、そこに立ち返ることで、判断基準をそろえ、建設的に議論を進められます。


私たちは、このコンセプトづくりを、役員や管理職、選抜された社員が一堂に会するワークショップ形式で進めることを推奨しています。


社員を制度づくりに参画させることで、人事評価制度に対する当事者意識を育てるためです。


一般的に、社員は人事評価制度を、会社が一方的に定めた法律やルールのように捉え、自分ではどうすることもできないものだと考えがちです。


策定のプロセスに関わっていなければ、制度はどこか他人事になり、「使えない」「意味がない」と批判する対象にもなりやすくなります。


一方、コンセプトの設計に自ら参画すれば、制度がつくられた背景や意図への理解が深まります。


その経験自体が、会社や人事評価制度への納得感と愛着を高めるだけでなく、評価や処遇、賃金に関する知識を身につける機会にもなります。


コンセプトを考える際の基本的な枠組みが、「理念の実践度」と「業績・能力」の二軸です。


理念を実践し、業績や能力も高い社員がAです。


理念を大切にして行動しているものの、業績や能力がまだ十分ではない社員がB。


一方、業績は高くても、理念に反する言動が見られる社員がCです。


会社が最も高く評価するのがAであることは明白です。


そして、その会社の人事評価における哲学が本当に問われるのは、BとCのどちらをより高く評価するかです。


理念を軽視した行動をしながら、数字を上げたCを優遇すれば、社員には「結局、数字さえ出せば何をしても許される」というメッセージが伝わります。


反対に、業績成果は今一つでも、理念を実践するBをCよりも大切に扱えば、「成果創出に向けた行動や人としての在り方まで含めて評価する会社である」という意思を示せます。


いい会社と呼ばれる企業は、評価と処遇を通じて「B>C」というメッセージを明確に発信します。


人事評価制度とは、社員に点数をつけ、格づける仕組みであると同時に、会社が大切にする価値観を具体的な行動として伝える仕組みでもあるのです。


しかし、実際はそれほど単純ではありません。


「B>C」というメッセージを打ち出したからといって、Cに該当する社員が素直に考えを改め、行動を変えるとは限りません。


むしろ、「結果を出しているのに、それに見合う評価をしてもらえなかった」と不満を募らせ、態度を硬化させることもあります。


場合によっては、退職を選ぶ社員もいるでしょう。


会社にとっても、実際に成果を上げているCの社員を簡単に手放すことはできません。


それでも、理念に反する言動や成果の出し方を高く評価しないと、会社が腹を決められるかどうか。


その覚悟を最初に固めることこそ、コンセプト設計の重要な役割です。




人事評価制度の作り方2| 職責基準を定義する(役割・責任・必要能力の明確化)

工程2のイメージ

コンセプトが固まったら、次に、各部門の各職位にどのような役割と責任を担わせ、その役割を果たすためにどのような能力を求めるのかを明文化します。


あわせて、「何ができるようになれば、次の職位へ上がれるのか」という昇格基準も整理します。


必要な能力を洗い出す際には、職位によって求められる力が異なることを踏まえなければなりません。


たとえば、一般職には、担当業務を正確に遂行する力や報告・連絡・相談、相手の意図や感情をくみ取る対人感受性が求められます。


管理職には、組織としてPDCAを回す力、人材育成力、計数管理力が必要です。


さらに経営層には、将来を見据えて事業を構想する力や、次の経営を担う後継者を育成する力が求められます。


こうした能力は、経営学者ロバート・L・カッツが提唱した「カッツ・モデル」を踏まえ、「テクニカルスキル(業務遂行能力)」「ヒューマンスキル(対人関係能力)」「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」の三つに分け、職位ごとに整理していきます。


カッツ・モデルでは、職位が変われば、三つの能力に求められる比重や水準も変わると考えます。


一般職や現場のリーダーには、担当業務を正確に遂行するテクニカルスキルが特に重要です。


管理職、経営層へと職位が上がるにつれて、テクニカルスキルの比重は相対的に低下し、組織全体を俯瞰して将来の方向性を描くコンセプチュアルスキルの比重が高まります。


一方、ヒューマンスキルは、どの職位にも共通して求められます。


ただし、その内容は同じではありません。


一般職に求められる報告・連絡・相談から、管理職に求められる部下育成や部門間調整、経営層に求められるビジョンの発信や組織の鼓舞へと、職位が上がるにつれて、より高度で複雑なものになっていきます。


この工程で明らかになるのが、「現時点では管理職として必要な役割や能力を十分に備えていない人が、役職に就いている」という歪みです。


たとえば、個人として高い成果を上げた社員を、その功績に報いるために管理職へ昇格させたものの、本人は人材育成や組織運営を得意としていない、といったケースです。


急成長中のベンチャー企業や昇給の根拠を明示してこなかった業歴の古い企業には比較的多いエラーです。


職位ごとの職責と必要能力を言語化すれば、こうした組織上の歪みが可視化されます。


同時に、なぜその人を昇格させるのか、あるいは、なぜ今は昇格させないのかを、社員に対して具体的に説明できるようになります。




人事評価制度の作り方3| 情意・能力の評価項目と評価基準をつくる

工程3のイメージ

この工程は、人事評価制度をつくる中でも、「手間をかける」というより、「知恵を絞る」工程です。


評価項目や評価基準のサンプルは、厚生労働省のホームページをはじめ、人事評価に関するビジネス書や「13歳のハローワーク」公式サイトなどでも紹介されています。


最近では、生成AIに指示すれば、短時間で「それらしいもの」をつくることもできます。


つまり、評価項目を選び、評価基準の文章をつくるだけであれば、以前ほど手間はかからないのかもしれません。


しかし、簡単につくれるようになったからこそ、借り物の「それっぽい制度」を十分に吟味せず、そのまま導入してしまう企業も少なくありません。


その結果、運用を始めてから自社の実態に合わないことが分かり、かえって大きな苦労を抱えることになります。


大切なのは、サンプルを集めることでも、整った文章をつくることでもありません。


自社がどのような行動を評価し、どのような社員を増やしたいのかを考え抜き、それを評価項目と評価基準に落とし込むことです。


手間をかけずにつくれる時代だからこそ、この工程では知恵を絞る必要があるのです。


情意評価は、「情熱」と「意欲」に代表される“はたらく姿勢”を評価するものです。


一般的には、「積極性」「責任感」「協調性」「規律性」などが評価項目として挙げられます。


私たちが、ここで大切にしているのは、それらの一般的な評価項目ではなく、自社のミッションやバリューからキーワードをピックアップして評価項目として設定することです。


そうすることで、人事評価そのものが理念を社員の日常行動へ落とし込む手段になります。


能力評価では、会社が社員に求める能力の発揮度を評価します。


工程2で整理したカッツ・モデルの「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の三つをもとに、職種や職位ごとに必要な能力を評価項目として設定していきます。


そして、この工程のポイントは、評価基準に「0点」を設け、会社として「やってほしくない行動」を明文化することです。


0点を設ける目的は、社員に低い評価をつけることではありません。


0点の欄に書かれた行動を、会社として許容しないNG行動として社員に示し、組織に浸透させることにあります。


たとえば「責任感」であれば、0点は「自分の仕事や役割への自覚が感じられず、中途半端な仕事が多い」とします。


「積極性」であれば、「会社のプロジェクトに参画しようとしない」。


「協調性」であれば、「周囲への不平不満が多く、職場のモチベーションを下げる言動が目立つ」といった内容です。


こうした行動をあえて言葉にすることで、「この会社では、どのような行動を望まないのか」が社員に伝わります。


0点は、社員の評価を落とすための基準ではありません。


組織から減らしたい行動を明確にし、社員一人ひとりの行動をよりよい方向へ導くためのメッセージなのです。


もう一つ欠かせないのが、「ブリッジング」です。


評価基準に書かれた言葉を、社員が自分の具体的な業務や行動に翻訳して、初めて評価は育成につながります。


たとえば、「積極性がある」とは、自分の仕事ではどのような行動を指すのか。


「責任感が高い」とは、現在の役割において何をすることなのか。


こうした翻訳を上司と部下が面談の中で一緒に行い、次の目標や具体的な行動へ落とし込みます。


反対に、「積極性」「責任感」といった言葉だけを掲げ、具体的な評価基準を示さなければ、評価者ごとに解釈がばらつきます。


その曖昧さが、後述する評価への不信を生む温床になるのです。




人事評価制度の作り方4| 賃金テーブルをつくる

工程4のイメージ

評価結果を適切に処遇へつなげるために、賃金テーブルを設計します。


最初に確認するのは、基本給や各種手当などの給与項目と、それぞれの配分が現在のままで適切かどうかです。


そのうえで、社員の標準的な昇給ペースや、等級ごとの賃金の下限額・上限額を設定し、会社の人件費負担も踏まえながら慎重にテーブルを組み立てます。


固定残業代、いわゆる「みなし残業」を採用している場合は、対象となる時間数や金額の根拠、超過分の取り扱いが明確になっているかも、この段階であわせて見直します。


この工程での“あるある”が、それまで「部長の給与水準を引き上げたい」「成果を出した人には夢のある金額を支給したい」と威勢よく話していた経営者が、現実に引き戻され、財布のひもを固くしてしまうことです。


まさに現金な話です。


私も経営者なので気持ちはよく理解できます。


また、社員への配慮から手当を追加し続けた結果、給与体系が複雑になったり、説明不能な手当が何十年にわたって支給されていたりと、もはや全体像を把握している人がいない状態が明るみに出たりします。


一つひとつの手当には、つくられた当時の事情や善意があったはずです。


しかし、例外を積み重ねた給与体系は、社員にとって分かりにくく、会社にとっても管理しにくいものになります。


賃金テーブルや手当の設計は、長年にわたって積み重なった例外を整理し、会社として何に対して賃金を支払うのかを改めて明確にする機会でもあります。




人事評価制度の作り方5| 人件費シミュレーションを行う

工程5のイメージ

賃金テーブルを設計したら、次に人件費シミュレーションを行います。


ここで確認するのは、大きく二つです。


一つは、新制度への移行によって全社の総人件費がどの程度変動するのか。


もう一つは、社員一人ひとりの賃金がどのように増減するのかです。


この二つを同時に確認しなければ、会社にとって持続可能で、社員にとっても納得できる制度にはなりません。


まず、全社の総人件費を確認します。


現在支払っている基本給や諸手当の総額と、新しい賃金テーブルを全社員に適用した場合の総額を比較します。


さらに、翌年以降の昇給原資や総人件費がどの程度増加するのかもシミュレーションします。


制度を導入する初年度だけでなく、数年先まで会社が無理なく支払い続けられるかを確認するためです。


高評価、標準評価、低評価の社員がそれぞれ一定の割合で発生するケースを想定すれば、より精緻な試算ができます。


ただし、社員数の限られる中小企業では、評価分布のわずかな違いによって結果が大きく変わるため、過度に複雑な前提を置いても、必ずしも精度が高まるとは限りません。


まずは、評価対象者全員が標準評価で推移した場合を基本シナリオとして、数年後の総人件費を確認すれば十分です。


そのうえで、会社の人員規模や昇給額によって影響が大きい場合には、高評価者が多いケースなども追加で試算するとよいでしょう。


同時に、社員一人ひとりについて、現在の賃金と新制度上の理論賃金との差額を算出します。


年齢、勤続年数、新しい等級などを軸にして社員をプロットすると、どの社員や階層に大きな差が生じているのかが見えやすくなります。


シミュレーションの結果、新制度上の賃金が現在の賃金を下回る社員が出ることもあります。


しかし、制度を変えたからといって、直ちに賃金を新しい水準まで引き下げればよいわけではありません。


社員にとって不利益となる変更には、慎重な対応が必要です。


代表的な対応方法が、現在の賃金と新制度上の賃金との差額を「調整給」として支給することです。


調整給によって当面の支給額を維持しながら、毎年一定額ずつ減らす、数年間かけて段階的に解消するなどの経過措置を設け、新しい賃金テーブルへソフトランディングさせます。


また、制度移行時には、全体の総人件費を現状と同程度に保つ場合もあれば、賃上げを兼ねて一定程度増額する場合もあります。


いずれの場合も、一部の社員だけが極端に得をしたり、不利益を受けたりしないよう、全体のバランスを見ながら調整する必要があります。


人件費シミュレーションは、単に計算表をつくる作業ではありません。


制度設計上の「理想」と、会社が継続して支払える「現実」、そして社員が受け入れられる「納得」の三つをすり合わせる工程です。


ここを曖昧にしたまま制度を導入すると、その歪みは必ず運用開始後に表面化します。




人事評価制度の作り方6| 人事評価シートを作成する

工程6のイメージ

次に、これまで設計してきた評価項目や評価基準を、実際に運用するための人事評価シートに落とし込みます。


人事評価シートとは、社員の業績、能力、仕事に取り組む姿勢などを、一定の基準に沿って記録し、可視化するためのツールです。


昇給や昇格、賞与などの処遇を決める根拠になるだけでなく、社員の成長支援や適材適所の配置を考えるための基礎資料としても活用します。


人事評価シートの最も重要な役割は、社員の成長を支援することです。


上司が部下の現状を記録し、優れている点と改善すべき点を可視化することで、具体的な指導や助言ができるようになります。


本人にとっても、自分の強みや課題を客観的に捉え、次にどのような行動を取るべきかを考えるきっかけになります。


つまり、人事評価シートは、過去の結果を判定するためだけのものではありません。


現在地を確認し、未来の成長へ向かうための羅針盤でもあるのです。


人事評価シートを作成し、運用する目的は、大きく三つあります。


  • 被評価者の納得感を高める

  • 評価結果を人材育成につなげる

  • 処遇決定の公平性を担保する

評価シートのひな型は、インターネット上にも数多く公開されています。


その中から、自社の制度や運用方法と相性のよいものを参考にして作成すればよいでしょう。


ただし、見た目が整っているからという理由だけで選ぶのではなく、自社で定めた評価項目や評価基準を無理なく反映できるか、評価者と被評価者の双方が使いやすいかを確認することが大切です。


一般的な人事評価シートは、主に次の項目で構成されます。


  • 氏名、所属、職位などの基本情報

  • 評価項目と評価基準

  • 被評価者本人による自己評価

  • 評価者による評価(1次、2次と段階別になるケースもあります)

  • 最終評価

  • 評価理由や本人へのフィードバックコメント

人事評価、人事管理のDX化を謳って、既製のタレントマネジメントシステムや人事管理システムと評価シートを連携させる場合には、特に注意が必要です。


システムを販売する企業の担当者から、「御社の制度に合わせてカスタマイズできます」と説明されることがあります。


しかし、実際にはカスタマイズできる範囲が限定されており、自社の制度をシステムの仕様に合わせざるを得ないケースも少なくありません。


制度にシステムを合わせるはずが、いつの間にかシステムに制度を合わせている。


笑えない話ですが、実際によく起こります。


また、項目設定や評価フローのすり合わせに想定以上の時間がかかり、人事評価制度の導入スケジュールそのものを変更せざるを得なくなることもあります。


人事評価シートは、制度を運用するためのツールです。


ツールの使いやすさは重要ですが、ツールに合わせて制度の目的や思想を曲げてしまっては本末転倒です。


「後の祭り」にならないよう、システムの導入は、制度の全体像と運用方法を固めたうえで慎重に判断することをお勧めします。




人事評価制度の作り方7| 目標管理制度(=業績管理のしくみ)を設計する

工程7のイメージ

工程3で設計した情意評価、能力評価に加えて、業績評価の仕組みを設計します。


業績評価の方法として、現時点で最も汎用性が高いと私たちが考えているのが、MBO(Management by Objectives:目標管理制度)です。


カーディーラーや住宅販売会社のように、社員の多くが営業職で構成されている企業であれば、成約件数や受注高など、共通のKGIを用いて業績を評価することも可能です。


しかし、製造、品質管理、情報システム、商品開発、人事、総務、経理、法務など、多様な職種を一つの評価制度の中で扱う場合、全職種に共通する単一の業績指標を設定するのは現実的ではありません。


そもそも、そのようなKGIは存在しません。


その点、社員一人ひとりが、自らの職務や役割に応じた目標を設定し、その達成度を評価するMBOは、職種の違いを吸収しやすく、幅広い企業で活用できる仕組みです。


目標管理制度を運用するためには、目標管理シートを作成します。


一般的な目標管理シートは、次のような項目で構成されます。


  • 本人の所属、職位、氏名などの基本情報

  • 本人が取り組む業務テーマ(3~5個程度が多い)

  • テーマ別の達成基準 ※上の2項目を合わせて業績目標と呼んでいます

  • 目標達成に向けた具体的な行動計画

  • 目標の難易度とウェイト(必要に応じて)

  • 期中の進捗状況と上司からの支援内容

  • 期末の実績と本人による自己評価

  • 上司による評価とフィードバック

この中でも特に重要なのが、「何を目指すのか」だけでなく、「どの状態になれば達成と判断するのか」をあらかじめ明確にすることです。


テーマだけを書いて達成基準を決めていなければ、期末になってから上司と部下の間で達成度の認識が食い違います。


たとえば、「月次決算を効率化する」という目標だけでは、何をもって達成とするのかが分かりません。


「月次決算にかかる工数を期末までに20%削減する」「現在5営業日かかっている処理を3営業日以内に短縮する」など、成果の水準まで設定する必要があります。


ただし、すべての目標を無理に数値化する必要はありません。


数値化が難しい業務であれば、「どのような状態を実現するのか」「誰にどのような変化をもたらすのか」「どの成果物を完成させるのか」といった形で、達成した状態を具体的に言葉で定義します。


また、目標管理シートは、期中に進捗を確認し、必要に応じて目標や行動計画を見直すためのマネジメントツールです。


事業環境や会社方針が変わったにもかかわらず、期初に設定した目標を機械的に追い続けるのは、目標管理とは呼べません。


上司には、進捗の遅れを指摘するだけでなく、目標達成に必要な情報、権限、予算、他部門との調整など、どのような支援が必要かを確認する役割があります。


目標管理制度は、部下に目標を背負わせる仕組みではなく、上司と部下が成果を出すための方法を一緒に考える仕組みなのです。


最近では、あらゆる職種の業績目標を数値化し、数字だけで評価しようとする制度やパッケージも注目されています。


しかし、私たちは、こうした「数値化すれば公平になる」という考え方を手放しでは支持できません。


実際に、そのような制度を導入した企業から、「運用してみたものの、現場の実態に合わないので見直したい」という相談を受けることも少なくありません。


もちろん、目標を数値で表せるのであれば、数値化した方が評価は分かりやすくなります。


しかし、すべての重要な仕事が数字で表せるわけではありません。


トラブルを未然に防ぐこと、部門間の調整を進めること、後輩を育成すること、業務の仕組みを改善することなど、数値化しにくくても会社の業績に大きな影響を与える仕事は数多くあります。


また、概念的には数値化できたとしても、実際の数値化には新たに膨大な工数を投下しなければならない業務も存在します。


無理に数字へ置き換えれば、評価しやすくなる一方で、本来評価すべき仕事の価値を見失うことにもなりかねません。


数字で表しやすい仕事だけが重視され、数値化しにくい仕事が軽視されれば、社員は評価される仕事ばかりを選ぶようになります。


もちろん、MBOにも欠点はあります。


目標設定の質にばらつきが出る、達成しやすい目標を設定する、期中の環境変化に対応しにくいといった問題も起こります。


しかし、日常的なマネジメントや上司と部下のコミュニケーションと組み合わせ、目標を適宜見直しながら運用すれば、十分に機能させることができます。


経営者や人事部門には、「数値化すれば、すべてうまくいく」という言葉に踊らされない姿勢が必要です。


数字にできるものは数字で評価する。


一方で、数字には表れにくくても、業績への影響が大きい仕事については、逃げずに言葉で評価する。


その覚悟を持って業績評価の仕組みを設計することが重要です。




人事評価制度の作り方8| 評価者研修を実施する

工程8のイメージ

工程8は、厳密には人事評価制度そのものを設計する工程ではありません。


しかし、新しい制度を本格的に運用する前に欠かせない準備であるため、制度構築の最後の工程として説明します。


工程1から工程7までを経て制度や帳票が完成しても、それだけで人事評価制度が正しく機能するわけではありません。


実際に部下の目標を確認し、評価を行い、結果をフィードバックするのは評価者です。


評価者が制度の目的や評価基準を十分に理解していなければ、どれほど丁寧につくった制度でも、運用の段階で形骸化してしまいます。


私たちが標準的な評価者研修として実施している内容は、主に次の5つです。


  • 新しい人事評価制度の目的と仕組みの理解

  • 評価者としての役割と心構え

  • 目標設定の基本

  • 目標達成に向けた進捗管理と支援

  • 評価面談・フィードバック面談の進め方

制度の説明だけでなく、目標をどのように設定させるのか、期中にどのような対話や支援を行うのか、評価結果をどのように本人へ伝えるのかまでを一連のマネジメントとして学んでいただけるメニューです。


特に重要なのは、評価者に「評価とは、期末に点数をつける作業ではない」と理解してもらうことです。


期初に上司と部下で目標や期待する行動を確認し、期中には進捗を管理しながら必要な支援を行い、期末にその結果を振り返る。


この一連のプロセスが評価者の役割です。


研修に加えて、実際の目標管理シートに記載された目標を添削したり、評価者が行うフィードバック面談をオブザーブしたうえで、改善点を個別に伝えたりする実践型のトレーニングも有効です。


目標設定や評価面談は、講義を一度受けただけで上達するものではありません。


実際に取り組み、フィードバックを受け、修正することを繰り返すことで、評価者としての力量が高まっていきます。


また、評価者によって基準の解釈が大きく異なると、同じ行動や成果であっても、上司によって評価が変わるという問題が起こります。


そこで、具体的な事例を使って評価を行い、その根拠を評価者同士で共有する評価演習も必要です。


評価結果を完全に一致させることが目的ではありません。


どの事実を見て、どの基準に照らして判断したのかを説明できる状態をつくることが重要です。


評価者が「なぜこの制度なのか」「なぜこの評価項目や基準なのか」を腹落ちさせ、部下と同じ景色を見ながら対話できるようにする。


ここまで準備して、ようやく人事評価制度を動かす準備が整います。




そして本題、制度を機能させるポイントは「運用」にある

制度の運用・継続改善サイクルのイメージ

8つの工程を終えても、まだスタート地点に立ったにすぎません。


人事評価制度は、構築して終わるものではありません。


どれほど高名な専門家に依頼し、精緻な制度をつくったとしても、それだけで制度が自動的に組織へ根づくことはありません。


制度を本当に機能させるのは、導入後の運用です。


運用フェーズでは、評価者への継続的なトレーニング、全社員向けのガイダンス、目標設定の支援、設定された目標の精査、評価会議の開催、制度に対する満足度調査、そして毎年の見直しと修正など、地道な取り組みが続きます。


こうした日常的な運用に、人事部門がどれだけ工数を投下する覚悟を持てるか。


それによって、制度が組織に根づくか、形骸化するかが決まります。


運用を通じて目指すのは、次の4つの状態です。


  • 何をすれば、どのような評価や報酬につながるのかが、あらかじめ明らかになっていること(公開性)

  • なぜその評価になったのかを、評価者が具体的に説明できること(説明責任)

  • 評価結果が、社員自身の認識や実感と大きく食い違っていないこと(感情合致)

  • 社員の声や運用上の課題を踏まえ、制度を柔軟に見直せること(柔軟性)

この4つが満たされたとき、人事評価制度は、単に社員を評価する仕組みではなく、「いい会社づくり」を前へ進めるエンジンになります。


人事評価制度は、野球のグローブと同じです。


使いながら手入れを重ね、オイルを塗り続けた制度だけが、少しずつその会社の手に馴染んでいくのです。




まとめ

人事評価制度の運用による組織成長のイメージ

人事評価制度は、次の8つの工程でつくります。


  1. コンセプトと制度概要を設計する

  2. 職位ごとの職責と必要能力を定義する

  3. 情意・能力の評価項目と評価基準をつくる

  4. 賃金テーブルをつくる

  5. 人件費シミュレーションを行う

  6. 人事評価シートを作成する

  7. 業績評価制度(=目標管理制度)を設計する

  8. 評価者研修を実施する

会社の規模や制度の複雑さにもよりますが、構築に要する期間は、全体で8〜10か月が一つの目安です。


ただし、忘れないでください。


8つの工程を終え、制度が完成した日は、ゴールではありません。


ようやくスタート地点に立った日です。


私自身、これまで数多くの会社の人事評価制度づくりに立ち会ってきました。


その中で、制度が組織に根づいた会社に共通していたのは、制度そのものの緻密さではありませんでした。


導入後に生じる課題から目をそらさず、社員や評価者の声を聞きながら、運用を通じて磨き続ける覚悟があったことです。


人事評価制度は、つくるのが2割、育てるのが8割です。


制度を完成させることに力を使い果たし、運用を現場任せにしてしまえば、どれほど立派な制度でも形骸化します。


反対に、最初は多少粗削りでも、運用しながら改善を重ねれば、その会社らしい制度へと育っていきます。


この配分と覚悟だけは、どうか間違えないでください。


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この記事の監修 株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング(HMC) 監修:小川 晴寿(おがわ はるひさ/株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング) 中小企業の理念策定・浸透と、人事評価制度の「運用・定着」を専門に組織づくりを支援。「原理原則に基づいて経営をする“いい会社”を増やす」を掲げ、理念浸透型人事評価制度「SHIMILE(シミル)」、社員の意志に火をつける「Will Management」を体系化。(本記事は自社の構築支援資料および代表著書『Hな経営』の知見をもとに構成)

HMC公式サイト:https://h-mbo.com/


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