人事評価制度は意味がない?― 評価制度を社員に「無意味」と言われる会社に共通する7つの問題
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「うちの人事評価制度って、何の意味があるんですか?」
社員からそう聞かれたら、貴社の経営陣や人事担当者はどのように答えるでしょうか。
「社員の頑張りを公平に評価するためです」
「給与や賞与を決めるためです」
「社員の成長につなげるためです」
どれも間違いではありません。しかし、この説明を聞いて社員が納得するかというと、少々怪しいところです。
なぜなら、社員が知りたいのは人事評価制度の一般的な目的ではなく、「自社の人事評価制度が、自分や会社にどのような良い変化をもたらしてくれるのか」だからです。
半年に一度、忙しい仕事の合間を縫って評価シートを記入する。上司も複数の部下を評価し、膨大な時間をかけてコメントを書く。それにもかかわらず、評価結果が給与や昇格にどう反映されたのか分からない。面談では評価結果を告げられるだけで、今後の成長につながる話もない。
これでは、社員が「人事評価制度なんて意味ない」「こんな制度は無意味だ」と感じるのも無理はありません。
最初に結論をお伝えします。
人事評価制度そのものが意味のない仕組みなのではありません。しかし、「意味のない」と言われてしまう運用レベルの人事評価制度は、実際に数多く存在します。
では、どのような人事評価制度が無意味なのでしょうか。そして、意味のある制度に変えるためには何を見直せばよいのでしょうか。
中小企業の人事評価制度の策定・改定・運用を支援してきた立場から説明していきます。
1.なぜ人事評価制度は「意味ない」「無意味」と言われるのか

人事評価制度に対する不満は、単に「自分の評価が低かった」という話だけではありません。
社員が「この人事評価制度は意味がない」と感じる背景には、評価制度そのものよりも、制度の運用に対する不信感があります。
代表的な不満を見ていきましょう。
1-1.評価基準が曖昧で、上司の主観に左右される
「主体性がある」「責任感がある」「協調性が高い」といった評価項目は、多くの会社で使われています。
しかし、これらの言葉をどのような行動によって判断するのかが明確になっていなければ、評価は上司の印象に左右されます。
ある上司は、上司の指示を待たずに行動する社員を「主体性がある」と評価します。別の上司は、周囲と相談せずに進めたとして「協調性がない」と評価するかもしれません。
同じ行動をしても、評価者によって点数が変わる。これでは社員が納得できないのも当然です。
人が人を評価する以上、主観を完全になくすことはできません。しかし、主観が入ることと、評価者によって判断基準がバラバラであることは別の問題です。
1-2.どれだけ頑張っても、評価や給与がほとんど変わらない
人事評価制度を導入しているにもかかわらず、ほとんどの社員が毎回同じ評価になる会社があります。
評価結果が違っても、給与や賞与にはほとんど差がつかない。あるいは、どのような評価を取れば昇給・昇格できるのかが説明されていない。
この状態が続けば、社員はこう考えます。
「頑張っても頑張らなくても変わらない」
評価制度には、社員の努力や成長を認める機能が必要です。しかし、評価結果と処遇との関係が見えなければ、制度は社員の意欲を高めるどころか、かえって意欲を下げる原因になります。
1-3.十分な説明もなく「無理ゲー」な目標を押し付ける
上司から十分な説明もないまま、明らかに達成困難な目標を設定される。そして期末になると、「目標を大幅に下回った」という理由で低い評価をつけられる。
社員からすれば、まさに「無理ゲー」です。
目標は、高ければよいわけではありません。なぜその目標に取り組む必要があるのか、どのような方法で達成を目指すのか、達成のために上司や会社は何を支援するのか。こうした点を話し合い、上司と部下が納得したうえで設定する必要があります。
高い目標を掲げながら、必要な権限も情報も人員も与えない。期中の助言や支援もない。それで期末に「未達成だから低評価」と結論づけるのであれば、評価制度は社員を成長させる仕組みではなく、会社側の都合で低い評価を正当化する道具になってしまいます。
挑戦的な目標と、達成可能性を無視した目標は別物です。社員に努力を求めるなら、会社と上司にも、目標達成を支援する責任があります。
1-4.評価結果だけを伝えられ、理由や改善点が分からない
「今回の評価はBです」
そう言われても、社員には次に何をすればよいのか分かりません。
なぜB評価だったのか。どの行動が評価され、何が不足していたのか。A評価になるためには、どのような行動や成果が必要なのか。
ここまで伝えられて、初めて評価は成長につながります。
点数やランクを伝えるだけの評価面談は、学校の通信簿を渡しているのと変わりません。しかも、会社ではその評価が給与や昇格に影響します。説明がなければ、社員が不公平感を抱くのは当然です。
1-5.評価シートを埋めること自体が目的になっている
評価の時期になると、人事部から評価スケジュールが届きます。社員が自己評価を入力し、上司が評価とコメントを記入する。その後、上司と部下で評価面談を行い、期限までに人事部へ提出します。
一通りの手続きは行われています。問題は、その中身です。
社員は半年前に設定した目標を見返しながら、書けそうな成果を思い出す。上司も日常的に記録していた事実ではなく、記憶を頼りに評価をつける。面談では評価項目を上から順に確認し、最後に「次の期も頑張りましょう」と伝えて終わる。
そして、提出された評価シートに空欄や記入漏れなどの不備がなければ、今期の評価業務は完了です。
面談は行われています。しかし、その場で上司と部下の認識の違いが明らかになったのか、社員の成長課題が具体的になったのか、次の行動や上司の支援内容が決まったのかは確認されません。
これでは、評価面談も人事評価という儀式を完了させるための手続きにすぎません。
人事評価制度を運用するとは、決められたスケジュールどおりに書類と面談を完了させることではありません。評価を通じて、社員と上司の次の行動を変えることです。
2.人事評価制度が無意味なのではない。「評価して終わる制度」が無意味である

人事評価制度の目的を尋ねると、多くの会社から「社員を公平に評価し、給与や賞与を決めるため」という答えが返ってきます。
もちろん、処遇を決めることは人事評価制度の重要な役割です。
しかし、それだけが目的なら、人事評価制度はあまりにも手間のかかる仕組みです。
社員は目標を立て、自己評価を書き、面談を受けます。管理職は日常の仕事を観察し、評価を行い、コメントを書きます。人事部は評価結果を集計し、評価者間のばらつきを調整します。
これだけの時間と労力を使いながら、最後に給与と賞与を決めて終わるのであれば、そしてそれが大差のないものに帰結するのであれば、「もっと簡単な方法で決めればよいのではないか」という疑問が出るのは当然です。
私たちは、人事評価制度の目的を次のように考えています。
人事評価制度は、点数をつけて社員だけに行動変容を迫る道具ではありません。評価という営みを通じて、社員と経営者の双方が変わる覚悟を持ち、会社の経営課題を解決するための仕組みです。
会社が解決したい課題は、それぞれ異なります。
若手社員を早期に育成したい会社もあれば、管理職に部下育成を担ってほしい会社もあります。個人商店の集まりのような組織から、部門を越えて協力できる組織へ変わりたい会社もあります。経営理念を社員の日々の行動に落とし込みたい会社もあるでしょう。
人事評価制度は、こうした経営課題を解決するための手段です。
制度を導入すること自体が目的になった瞬間、人事評価制度は意味を失います。
3.「意味のない人事評価制度」に共通する7つの問題

では、社員から「意味ない」「無意味だ」と思われる人事評価制度には、どのような共通点があるのでしょうか。
3-1.何を変えたいのか、経営者が説明できない
人事評価制度の策定を検討している経営者に、「制度を導入して、会社をどのように変えたいのですか」と質問することがあります。
すると、次のような答えが返ってきます。
「社員を公平に評価したい」
「頑張っている社員に報いたい」
「そろそろ、きちんとした会社にしたい」
これらは制度導入のきっかけにはなりますが、目的としては十分ではありません。
公平な評価によって、社員の何を変えたいのでしょうか。頑張っている社員とは、具体的にどのような成果や行動を生み出している社員でしょうか。「きちんとした会社」とは、どのような状態なのでしょうか。
人事評価制度によって社員の意識・行動・仕事の進め方をどう変えたいのか。経営者がそれを説明できなければ、制度をつくる側も、評価する管理職も、評価される社員も迷います。
目的地が決まっていないのに、立派なカーナビだけを設置しても意味はありません。
3-2.会社の経営方針と評価項目がつながっていない
経営理念では「挑戦」を掲げているのに、失敗した社員の評価が下がる。会社方針では「チームワーク」を重視しているのに、個人の売上だけで評価する。
これでは、社員は会社が掲げている言葉ではなく、実際に評価される行動を選ぶようになります。
会社が「挑戦しよう」と言っても、失敗によって評価が下がるなら、社員は挑戦しません。「部門を越えて協力しよう」と言っても、自部門の成果しか評価されないなら、他部門への協力は後回しになります。
人事評価制度は、経営者から社員への強いメッセージです。
何を評価するかは、「この会社では、何を大切にして働いてほしいのか」を示しています。
経営方針と評価項目がつながっていない会社では、経営者の言葉より評価シートの方が強い力を持ってしまいます。
3-3.等級・評価・給与を貫く思想がない
人事制度は、大きく分けると等級制度、評価制度、賃金制度の三つで構成されます。
等級制度は、社員に期待する役割や能力の段階を示すものです。評価制度は、その期待に対してどの程度の成果や行動を発揮したかを確認するものです。賃金制度は、その役割や評価を給与や賞与に反映する仕組みです。
この三つは、本来、一つの思想でつながっていなければなりません。
ところが、基軸となる思想がないまま制度をつくり、運用上の問題が起こるたびに部分的な改定を繰り返している会社があります。
昇格基準が曖昧だから等級制度を見直す。評価への不満が出たから評価項目を増やす。採用競争力を高めるために初任給だけを引き上げる。管理職になりたがる社員が少ないため、役職手当を増額する。
一つひとつの対応には、それなりの理由があります。しかし、その場で問題になった箇所だけを直していくと、等級・評価・給与のつながりが失われていきます。まさに「木に竹を接ぐ」ような人事制度です。
その結果、評価は高かったのに昇格できない。等級が上がっても求められる役割が変わらない。責任が増えたのに、給与はほとんど上がらない。給与が上がった人も、その理由を説明できない、といった矛盾が生まれます。
制度をつなぐのは、複雑な計算式ではありません。
「会社は社員に何を期待し、どのような成長や貢献に報いるのか」という思想です。
この思想を基軸に、「何を期待されているのか」「どのくらい応えられたのか」「何ができれば次の段階へ進めるのか」「その成長や貢献にどう報いるのか」を、一つの流れとして説明できる制度にする必要があります。
3-4.評価尺度が「良い・悪い」で終わっている
人事評価シートで、次のような5段階評価を見かけます。
5:大変良い
4:良い
3:標準/普通
2:劣る
1:大変劣る
一見すると、5段階に区分された立派な評価基準です。しかし、よく見ると、何をもって「大変良い」と判断し、「良い」と区別するのかがまったく分かりません。
そもそも「標準」とは、どのような状態なのでしょうか。
与えられた仕事を期限どおりに終えれば標準なのか。多少のミスはあっても許容されるのか。本人の等級に求められる役割を果たせば標準なのか。それとも、職場の社員を横に並べたときの平均を標準とするのか。
ここが定義されていなければ、「標準」の意味は評価者ごとに変わります。
ある上司は、期待された役割を果たせば「3」をつけます。別の上司は、「普通に仕事をしただけでは2。期待を上回って初めて3」と考えるかもしれません。部下に甘いと思われたくない上司は4や5をほとんどつけず、部下の努力を認めたい上司は積極的に高い評価をつけます。
つまり、数字はついていても、共通の物差しは存在していません。
「大変良い・良い・標準・劣る・大変劣る」は、評価基準のように見えて、実際には評価者の感想を5段階で表しているだけです。
評価尺度に必要なのは、形容詞の強弱ではありません。それぞれの等級や役割に対して、どのような成果や行動を発揮すれば「期待どおり」なのか、何をすれば「期待を上回った」と判断するのかという具体的な基準です。
5段階に分けたから、評価が客観的になるわけではありません。基準のない5段階評価は、曖昧な判断に数字をつけて、客観的に見せているにすぎないのです。
3-5.評価能力の低い管理職を放置している
人事評価制度を導入・改定する際、多くの会社が評価者研修を実施します。
評価制度の目的、評価シートの記入方法、評価スケジュール、陥りやすい評価エラーなどを説明し、ケースを使った演習を行う会社もあります。
問題は、その後です。
研修を一度実施したことで、すべての管理職が適切に評価できるようになったと考え、その後の評価能力を確認していない会社が少なくありません。
しかし、一度の研修で評価能力が身につくほど、人事評価は簡単ではありません。
評価の根拠となる事実を集められない。部下の印象や直近の出来事に引きずられる。高い評価や低い評価をつけることを避け、すべて「3」に寄せる。部下に嫌われたくないため評価が甘くなる。反対に、「自分の若い頃はもっとできた」という基準で厳しく評価する。
こうした評価者ごとの癖は、研修を受けただけでは簡単に直りません。
それにもかかわらず、実際の評価結果を確認し、評価能力の低い管理職に個別の指導やフォローを行っている会社は多くありません。評価者会議も、部門間の評価分布や点数を調整するだけで終わり、「なぜその評価にしたのか」「どのような事実を根拠に判断したのか」まで検証されないことがあります。
人事評価は、評価シートに点数を入力する作業ではありません。
部下に求める役割を伝え、目標について合意し、仕事の進捗を確認し、必要な支援を行い、一定期間の成果と行動を事実に基づいて振り返る一連のマネジメントです。
評価者研修は、評価能力を身につけるためのスタートにすぎません。
実際の評価結果や面談内容を確認し、評価者ごとの課題を明らかにする。判断が分かれた事例について話し合う。評価能力が不足している管理職には、再研修や個別指導を行う。
ここまで継続して、初めて会社としての評価基準がそろっていきます。
社員は上司を選べません。同じ成果や行動でも、誰が上司になるかによって評価が変わる状態を放置すれば、人事評価制度への信頼は失われます。
一度の評価者研修を「実施済み」と記録することより、評価者が本当に評価できているかを確認し続けることの方が、はるかに重要です。
3-6.日常的な支援の量と質が不足している
多くの管理職は、部下にまったく関わっていないわけではありません。日常的に声をかけ、会議で進捗を確認し、1on1を実施している会社もあります。
それでも、その関わりが部下の目標達成や成長につながるだけの量と質を伴っているとは限りません。
「順調?」「困っていることはない?」と尋ねても、部下が「大丈夫です」と答えれば、それ以上の話にはならないことがあります。進捗が芳しくない部下をひたすら叱責したり、発破をかけたりするだけのコミュニケーションも少なくないでしょう。
必要なのは、目標に対してどこまで進んでいるのか、何が計画どおりに進んでいないのか、その原因は何か、次にどのような行動を取るのかを具体的に確認することです。そのうえで、上司は助言、情報提供、関係者との調整、権限移譲など、必要な支援を行います。
日常的な支援が不十分なまま評価のタイミングを迎え、「目標未達成だから低い評価」と伝えても、部下は納得できません。
評価は、半年に一度下す判定ではなく、その期間のマネジメントの結果でもあるのです。
3-7.社員にだけ変化を求め、会社や経営者は変わらない
人事評価制度の策定目的として、経営者から「社員の意識を変えたい」と言われることがあります。
しかし、社員の意識を変える制度を導入するのであれば、会社や経営者にも変化が求められます。
挑戦を評価するなら、失敗を許容する必要があります。成果を評価するなら、必要な権限や情報を社員に渡さなければなりません。管理職に部下育成を求めるなら、プレーヤーとしての仕事を減らす必要があるかもしれません。
社員には高い目標を求める一方で、経営者は曖昧な指示を変えない。管理職には面談を求める一方で、その時間が確保できるような仕事のさせ方を認めない。結果に異議を唱える社員を苦々しく思う一方で、会社は処遇の考え方を説明しない。
これでは、人事評価制度は社員を管理するための道具になってしまいます。
社員にだけ変化を求め、会社や経営者が何も変わらない人事評価制度は機能しません。
4.人事評価制度を廃止すれば、問題は解決するのか

「人事評価制度にこれほど問題があるなら、いっそのこと廃止すればよいのではないか」
そう考える経営者もいるでしょう。
実際、従来のように社員をS・A・B・Cなどにランク付けする方法をやめる「ノーレイティング」という考え方もあります。
ただし、ノーレイティングは、社員をまったく評価しないことではありません。年1回、全社員を一律にランク付けする方式を見直し、日常的な対話やフィードバックを重視する考え方です。
ノーレイティングにもデメリットはあります。管理職のマネジメント能力によって対話やフィードバックの質に差が生じやすく、日常的な対話を増やせば管理職の負担も軽くなるとは限りません。また、明確な基準までなくしてしまえば、給与・賞与・昇格を決める根拠が見えにくくなり、かえって経営者や上司の主観が強くなる可能性があります。
人事評価制度を廃止しても、会社は社員の給与、賞与、昇格、配置を決めなければなりません。誰に重要な仕事を任せるのか、誰を管理職にするのかという判断も残ります。
評価シートをなくすことはできても、社員との対話や処遇に関する説明責任をなくすことはできません。むしろ制度を簡素化するほど、管理職には日常的に部下を観察し、期待を伝え、フィードバックする力が求められます。
大切なのは、人事評価制度を存続させるか、廃止するかではありません。
自社では、何のために社員を評価するのか。その目的を実現するために、どのような仕組みと対話が必要なのか。
この順番で考えることが重要です。
社員数が少なく、経営者が全社員の働きぶりを把握できる会社であれば、複雑な評価制度は必要ないかもしれません。一方で、社員数が増え、管理職が評価や育成を担う段階になれば、共通の基準が必要になります。
会社の規模や成長段階に合わない立派すぎる制度も、制度がないまま経営者の感覚だけで処遇を決める状態も、どちらも問題です。
5.意味のある人事評価制度に変えるための5つの見直し

「意味がない」と思われている人事評価制度を、意味のある仕組みに変えるためには、何から見直せばよいのでしょうか。
5-1.人事評価制度で解決する経営課題を明確にする
人材育成、理念浸透、業績向上、離職防止、処遇の公平性。
人事評価制度によって解決したい経営課題は、会社によって異なります。
ただし、思いつく課題をすべて並べ、評価項目に盛り込めばよいわけではありません。課題の優先順位や相互のつながりが曖昧なままでは、評価項目が増えるだけで、制度が何を目指しているのか分からなくなります。
たとえば、「昇給・昇格の根拠を社員に説明できない」「管理職によって評価基準が異なる」「社員が次に何を目指せばよいか分からない」という問題は、別々に見えても根はつながっています。
社員に期待する役割が明確になっておらず、その役割と評価、昇給・昇格の関係も整理されていないことが、共通する原因かもしれません。
その場合は、等級ごとに求める役割を明確にし、その役割に基づいて評価し、評価結果を昇給・昇格へどう反映するのかを一つの流れとして設計する必要があります。
人事評価制度で何を解決するのかが明確になれば、必要な制度と運用も具体的になります。反対に、解決したい課題が曖昧なままでは、どれほど精巧な制度をつくっても、会社にとっての意味は生まれません。
5-2.社員に期待する変化を、行動レベルまで言語化する
「社員にもっと主体性を持ってほしい」と考える経営者は少なくありません。
しかし、「主体性」という言葉から思い浮かべる行動は、人によって異なります。
指示を待たずに仕事を進めることなのか。会社の課題を見つけて改善案を提案することなのか。自分の担当業務に限らず、周囲に働きかけることなのか。
会社が期待する行動を具体的にしなければ、経営者、管理職、社員がそれぞれ異なる「主体性」を思い浮かべたまま評価することになります。
どのような場面で、どのような行動を増やしたいのか。その行動によって、顧客、職場、会社にどのような良い変化を起こしたいのか。ここまで言語化する必要があります。
抽象的な言葉を評価シートに並べる前に、自社で実際に高く評価したい社員の行動を集めてみるのも有効です。
経営者が評価したい行動だけでなく、管理職や社員が「この人のこういう働き方は見習いたい」と感じた事例も集めます。
具体的な行動事例を掘り下げることで、一般論ではない、自社らしい評価基準が見えてきます。
5-3.会社の期待と、社員が目指す成長・キャリアをすり合わせる
人事評価制度では、会社が社員に求める役割、成果、行動を明確にする必要があります。
会社が費用を負担して人を雇用している以上、社員に何を期待するかを決めるのは会社です。社員の希望に合わせて、評価基準や求める役割を変えるという話ではありません。
一方で、会社の期待を一方的に伝えるだけでは、社員は評価されるために仕事をこなすようになります。
社員はこれから何を身につけたいのか。どのような仕事に挑戦したいのか。今後、どのような成長・キャリアを目指しているのか。
会社が求める役割を果たすことが、社員本人の成長・キャリアにどうつながるのかを話し合うことが重要です。
もちろん、会社の期待と社員の希望が完全に一致するとは限りません。会社には社員に担ってもらわなければならない仕事があり、社員の希望をすべてかなえることもできません。
それでも、双方の考えを明らかにしたうえで目標を設定するのと、会社が決めた目標を一方的に渡すのとでは、社員の納得感や取り組む姿勢が変わります。
人事評価制度は、社員の希望に会社がすり寄る仕組みではありません。会社の期待と社員が目指す成長・キャリアの接点を探し、社員が自分の役割に意味を見いだすための対話の仕組みでもあるのです。
5-4.評価面談の成否を「表面上の合意」ではなく「行動変容」で測る
評価面談では、部下から評価結果への合意を得ることが重視されがちです。
しかし、低い評価を受けた社員が、上司の説明を聞いて「ごもっともです」と心から受け入れることは、それほど多くありません。
評価者が「部下に合意してもらわなければならない」と考えるほど、面談は過去の評価が正しかったことを証明する時間になります。上司は評価の根拠を説明し、部下は自分の成果や事情を主張する。最後は部下が「分かりました」と答えて面談を終えます。
しかし、その「分かりました」が、本当の理解や納得を意味しているとは限りません。上司との議論を終わらせるための、表面上の合意かもしれません。
評価結果とその根拠を説明することは必要です。しかし、部下から「分かりました」という言葉を引き出すことを、面談のゴールにしてはいけません。
重要なのは、社員が評価結果をどう受け止め、次に何を変えるかです。
次の評価期間に、どのような成果を目指すのか。何を続け、何をやめ、どのような行動を新たに始めるのか。そのために、上司や会社は何を支援するのか。ここまで具体的に合意できなければ、評価面談を行っても仕事の現実は何も変わりません。
評価面談の成否は、部下がその場で「分かりました」と答えたかどうかではなく、面談後に社員と上司の行動が変わったかどうかで判断すべきです。
5-5.制度の検証と見直しを運用に組み込む
人事評価制度は、導入後も会社の変化に合わせて見直していく必要があります。
多くの会社も、その必要性は理解しています。問題は、日常業務に追われるうちに、制度の検証が後回しになることです。
見直しを確実に行うためには、「問題が起きたら検討する」のではなく、検証する時期と方法をあらかじめ運用に組み込んでおく必要があります。
評価しにくい項目はなかったか。評価者によって判断に大きな差はなかったか。評価面談後に社員と上司の行動は変わったか。評価結果と昇給・昇格のつながりを説明できたか。
こうした点を、評価者や社員へのヒアリング、評価分布、面談記録などから定期的に確認します。
もちろん、毎年必ず制度を変更すればよいわけではありません。頻繁な変更は社員を混乱させ、制度への信頼を損なう可能性があります。検証した結果、問題がなければ変えないという判断も必要です。
制度を安定的に運用しながら、会社や組織の変化に応じて必要な見直しを行える状態を保つことが大切です。
人事評価制度は「構築2割、運用8割」です。制度をつくることだけでなく、検証し、必要な修正を加えるところまでを運用として設計することが重要です。
6.人事評価制度を見直す前に、経営者が答えるべき3つの問い

人事評価制度を導入・改定する前に、経営者に考えていただきたい三つの問いがあります。
問い1.社員の意識・行動・仕事の進め方を、具体的にどう変えたいのか
「社員にもっと頑張ってほしい」「自発的に動いてほしい」という抽象的な期待ではなく、どのような行動を増やしたいのかを考えます。
社員が顧客に行う提案を増やしたいのか。上司への報告を早くしたいのか。部門を越えた協力を増やしたいのか。
望ましい変化が具体的であるほど、評価基準と運用方法も明確になります。
問い2.現在の何がどのくらい変われば、社員に好ましい変化が生まれ、笑顔が増えるのか
人事評価制度を経営者の都合だけで設計すると、社員にとっては管理が強化されただけに見えます。
制度を導入・改定することで、社員にはどのような良い変化があるのでしょうか。
期待される役割が分かる。成長の方向が見える。頑張りが適切に認められる。上司と仕事やキャリアについて話す機会が増える。
人事評価制度によって、社員のどのような笑顔を増やしたいのかを考える必要があります。
問い3.その変化を起こすために、会社や経営者はどのような覚悟をするのか
社員の成長を求めるなら、教育に時間と費用を使う必要があります。管理職に面談を求めるなら、管理職の業務量を見直す必要があります。成果に報いたいなら、人件費が増える可能性も受け入れなければなりません。
制度を変えることは、評価シートを変えることではありません。
会社の意思決定や管理職の行動、経営者自身の関わり方を変えることです。
この三つの問いに答えられないまま制度づくりを始めると、見栄えは立派でも、何も変えられない人事評価制度ができあがります。
まとめ|意味がないのは、人事評価制度ではなく「目的のない評価」である

意味のない人事評価制度は、確かに存在します。
社員と管理職に多くの時間を使わせながら、評価結果の理由が分からない。社員の成長につながらない。会社の経営課題も解決しない。
そのような制度であれば、社員から「意味がない」「無意味だ」と言われても反論できません。
しかし、人事評価制度を廃止すれば、すべての問題が解決するわけでもありません。
会社は、誰に何を期待し、どのような成果や行動を評価するのかを決める必要があります。給与、賞与、昇格、配置についても判断しなければなりません。
だからこそ大切なのは、制度の有無ではなく、何のために評価するのかです。
人事評価制度は野球のグローブに似ています。
高価なグローブを買っただけでは、野球はうまくなりません。自分の手や守備位置に合わせて調整し、日々使いながら手になじませていく必要があります。
人事評価制度も同じです。
他社で上手くいった制度、コンサルタントが「これなら上手くいく」と喧伝した制度を導入しただけでは、自社で機能するわけはありません。自社の理念、戦略、組織、人材に合わせ、運用しながら見直し続ける必要があります。
人事評価制度の目的は、社員に点数をつけることではありません。
評価という営みを通じて、経営課題を解決すること。そして、会社の期待と社員一人ひとりのキャリアや成長に対する思いを重ね、対話を通じて成長を支援することです。
社員にどのような変化を求めるかを考えるだけでは、十分ではありません。
その変化によって、社員にどのような笑顔を増やしたいのか。そのために、会社や経営者自身が何を変えるのか。
人事評価制度の見直しは、そこから始まります。
この記事の監修 株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング(HMC)
監修:小川 晴寿(おがわ はるひさ/株式会社アッシュ・マネジメント・コンサルティング)
中小企業の理念策定・浸透と、人事評価制度の「運用・定着」を専門に組織づくりを支援。「原理原則に基づいて経営をする“いい会社”を増やす」を掲げ、理念浸透型人事評価制度「SHIMILE(シミル)」、社員の意志に火をつける「Will Management」を体系化。(本記事は自社の構築支援資料および代表著書『Hな経営』の知見をもとに構成)
HMC公式サイト:https://h-mbo.com/
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