#39
【HISAI ~被災~】
「ちょっといいですか。私にも一言、話をさせてください」
3月末に参加したセミナーで私が話をさせていただいている時、Aさんという経営者が“突然”手を挙げ、指名するかしないかのうちに、前に出てきて、こう切り出した。
「・・・前略・・・ 私たちの会社は地震が発生してから、2回ほど福島県の南相馬に支援物資を届けに行きました。明日も行く予定にしています。みなさんもぜひ行ってみてください。行けば感じるものがあります。まったく人手が足りていないんです。物資だって不足しています。もし今、東京にいて仕事がないなら、あっちへ行って働けばいいじゃないですか? うちの会社も震災以降、売上はガタガタです。それでも今は支援に行く時だと思っています。同じ国にすべての財産を失った人が大勢いる、私たちだった財産の半分を投げ出したっていいじゃないですかッ。お願いです、一度、現地で行って、ぜひ具体的な支援をしてください。」
※言葉は若干ことなるかも知れませんが、お話の主旨は伝えられていると思います。
私は、「やはり、行動している人の言葉には説得力があるな」 という感心と現地へ行っていないという微かな後ろめたさが交錯した気持ちで、その経営者の話を聴いていました。Aさんは、経営者としても人間としても、掛け値なく尊敬できる方です。それだけに、彼女から発せられた力強い言葉の一つひとつに、金八先生にお説教をされたような感覚をおぼえたのです。
その後、セミナー参加者が集まって懇親会が開かれました。
今回のセミナーは震災2週間後ということもあり、みなさん、いろいろと考えることがあったようで、いつも以上に口数が多かったように思います。その中で、別の経営者Bさんが、Aさんの話について口を開きました。
「実は、先ほどのAさんの話、私は少し違う考えを持っています。確かにAさんは素晴らしい経営者だし、現地へ支援物資を持って行き、炊き出しをおこなっていることは立派だと思います。しかし、自分の会社の売上が上がっていない状態で、その目途を立てないまま支援を続けることで、社員は幸せになるのだろうか。社員は皆、財産が半分になっていいという思いでいるのだろうか。私は、東京でできる被災地への支援を考えたい。そして、同時に自社の業績を回復させる術を考えることが経営者としての使命だと思っています。幸いなことに社員は私の考えに賛同してくれて結構な金額の義援金が集まりました。私たちはできる支援をやっていこうと思います。決してAさんの批判ではないことをご理解いただきたいと思います。」
当社はコンサルティング・ポリシーとして「百年経営」を掲げています。
Bさんも同じ「百年経営」という言葉にこだわって経営をされており、それがきっかけで好きになった素晴らしい方です。Bさんの話にも、その場にいた方々はじっと耳を傾けていらっしゃいました。
※Aさんは懇親会には参加されていません
今回のコラムで私が皆さんにお伝えしたいことは、どちらの意見が素晴らしいかということではなく、自分の心の強さに自信がない方は、少しこの種の議論から距離を取った方がいいのではないかということです。そうしないと心が被災してしまいます。
義援金の金額、支援のやり方、政府の対応や原発に対する意見、復興計画等、さまざまなテーマが議論の対象になっています。事が事だけに、みなさんの主張も平時と比べて少し強い印象を受けます。そんな時、自分の考えが確立されていないまま議論に参加してしまうと、他の方の意見に振り回されてしまうばかりか、自分の未熟さを思い知らされたり、卑しさを直視したり、後ろめたさや敗北感、挫折感に似た感情を味わったりして、知らず知らずのうちに心が弱くなってしまうのではないかと思うのです。(とてもTwitterやネットでかじった情報だけで太刀打ちできるようなレベルではありません)
こういう時だから、自分の意見を確立させる絶好の機会と捉えるという考えもわかりますが、心が弱った状態では、意見の確立もあったものではないでしょう。また、「人がやっているから」という理由で、自分が心から望んでいない行動を選択しても、良い結果にはなりません。それくらい、人の心は繊細に出来ているんじゃないかと思います。
比べない、押し付けない。
あなたの意見は、今のままで十分素晴らしい。
復興までの道のりは、まだまだ長い。
自分が長く続けられると思う支援を。
東日本大震災の被害状況(4月9日10時現在/警視庁発表)
死者:12,876人/行方不明者:14,865人/負傷者:4,645人
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