#114
Hard fact ~厳然たる事実~
冨山和彦さんが産業再生機構時代の経験を著した『会社は頭から腐る』は、
私に大きな示唆をくれた一冊です。
この本で最もインパクトを受けたのが、
人間は、インセンティブと性格の奴隷だ
という一節。
経営改革に対してやる気がない、粉飾決算に手を染めてしまう等の行為は、
その人間が愚かで倫理観が劣弱だったからという理由も然ることながら、
改革を怠けたり、不正を働くことが、少なくても短期的には合理的(≒得が多い)という主張です。
以来、私はいろいろな出来事を
この冨山さんの言葉に照らし合わせて見るようになりました。
◆
みなさんは、高知県にある大川村をご存知でしょうか?
この村は、過疎化と報酬の少なさから村会議員の成り手が減少、
議会を廃止して、新たに村民全員で決議する村総会の設置を検討したことで
一躍有名になりました。
先週9月13日の日経新聞に
大川村の議会存続のニュースが掲載されていました。
一旦の結論として、
村総会設置の調査・研修を中断し、村議会を存続させるそうです。
全員出席や公務員兼職禁止が大きなハードルになったと記事には書かれていましたが、
それ以上に気になったのは
「職員22人の同村で、議会の維持と総会の研究を両立させるのは厳しい」という一文。
多くの法律が絡んでくる行政の問題なので、
慎重を期す必要があるのは分かるものの、
過疎が原因でこのような研究に至った同村が、
人手不足を理由に研修を打ち切るというのはあまりにも皮肉な結果だと思うけれども
これがHard fact ~厳然たる事実~ なんですね。
人手不足、議員の成り手不足は、
同村で暮らすこと、議員になることが多くの人にとってインセンティブの働かないことだから。
冨山さんの主張を準えると、そう言い換えることができるのです。
◆
7月に『里山資本主義』の著者、藻谷浩介さんの講演を拝聴しました。
藻谷さんは、講演の中で、
金融資本主義の結果、未来の子孫が使うべき簿外資産を消費(≒搾取)することになった
と言っていました。簿外資産の搾取とは藻谷さんらしい言い回しだが、具体的な例として、
・化石燃料
・土、水、空気
・子ども(≒少子化・ワンオペ育児)
・治安や道徳等のソーシャルインフラ
等が上がっていたのだが、この時も、私の頭に過ったのは冨山さんの言葉でした。
石油の消費も、家庭を犠牲にした経済成長も、少子化も、
核家族化も、ご近所づきあいの減少も、
すべては私たち人類がインセンティブの奴隷だった末路であり、Hard factです。
◆
そして、現代に生きる私たちは、斯く生きるべきか。
懇意にしている自称“経営デザイナー”の中島セイジさんは、
ご自身のセミナーの中で、金融資本主義が作り出した思想を
“今だけ、金だけ、自分だけ”
と評していました。
これを使って、
・今だけじゃなく、未来も発展しますか?
・金だけじゃなく、心も豊かになりますか?
・自分だけじゃなく、他の誰かも幸せになりますか?
という自問を繰り返してみようと思います。
数年後に、この自問の結果が、
“今だけ、金だけ、自分だけ”にいきついたという
Hard factにならないように、
まずは、自分のできる小さな行動から。
~後書き~
このコラムを書いていて、当社の経営理念が思い浮かんできました。
~真実を受け止め、できることを実行する~
自画自賛ですが、あらためていい経営理念だと思いました。
自分たちの原点を忘れずに、できることを実行し続け、何かを成し遂げようと思います。