#115
Hustle & Hassle
少し古い話になるが、2000年のシドニー五輪の開会式。
クライマックスの聖火リレー、最終ランナーはキャッシー・フリーマンだった。
お恥ずかしながら、彼女が聖火リレーの最終ランナーになったことで
私は「アボリジニ」というオーストラリアの少数民族のことを初めて知りました。
イギリスから移住してきたオージーの祖先が
オーストラリア大陸の原住民であるアボリジニを虐殺していた話は
ネットにこれでもかというくらい出ているのでここではあえて触れませんが、
同じ国で暮らす、異なる民族の間に紛争や迫害、殺戮の歴史を経て
今もなお確執や憎悪に近い感情が根深く残っている事例は、
世界中、枚挙に暇がありません。
◆
2017年10月1日
朝食をとるために入ったカフェのテレビに映し出された映像は、
まさに Hustle(=押し合い・圧し合い) & Hassle(=激しい口論)でした。
この日は、スペイン北東部のカタルーニャ州が、
スペインからの独立を目指す住民投票の日でした。
そして、この歴史的な日を
私たちはカタルーニャの州都、バルセロナで過ごしたのでした。
カタルーニャが独立を目指す理由は、大きく2つ。
〇スペイン中央政府がカタルーニャ民族を軽視するような言動を繰り返したこと
〇カタルーニャ州が税金として支出する金額と還元される金額に大きな隔たりがあること
カタルーニャ地方は、
もともとカタルーニャ君主国またはカタルーニャ公国というスペインとは異なる国でした。
しかし、スペインの侵攻を受けて、スペインの支配下におかれることになります。
◆
カタルーニャはスペインからさまざまな迫害や弾圧の類を受けてきました。
まずは、言語。
カタルーニャ語の使用が禁止されていた時代があります。
その反動でしょう。
今のバルセロナ空港の表示は、英語・スペイン語・カタルーニャ語の三語表記。
美術館等のガイドにもカタルーニャ語が必ず用意されています。
次にサッカー。
FCバルセロナとレアルマドリードの試合がヒートアップするのは、
単に両チームが強豪同士だからではありません。
1936年から始まったフランシスコ・フランコ政権時代に、
フランコはお膝元マドリードのチーム、レアルマドリードが
バルサをボコボコにやっつけられるように
審判はもちろん、警察を味方につけ、バルサの会長も
自分の息のかかった人物にしてしまいます。
そして、カタルーニャの象徴であったFCバルセロナを圧倒し、
その姿をカタルーニャの民衆に見せつけたのでした。
最後に自治憲章。
2006年、カタルーニャの州議会で賛成、圧倒的多数で可決され、
住民投票でも承認されたカタルーニャ自治憲章をスペインの国会が裁判所に提訴。
裁判所も違憲の判決を下しました。
このようにカタルーニャには
国(≒マドリード)に煮え湯を飲まされ続けてきた歴史があるのです。
◆
カタルーニャ州が独立できるかどうかはさておき、
私は今回の住民投票の空気に現地で触れ、
民族的結合の強さを改めて実感するに至りました。
小学生の頃、社会科の授業でアフリカの勉強をした時、
先生が、定規で引いたような直線の国境を示して、
「国境は、時の支配者たちが後から地図の上に引いた線に過ぎない」と
教えてくれました。
日本にいると国と民族の差異に違和感を覚えることはほとんどありません。
(もしかすると、アイヌ民族はカタルーニャしかりの弾圧や迫害を受けているのかも知れません。)
しかし、世界は違います。
冒頭のアボリジニしかり、中国で弾圧を受けるチベット族・ウイグル族しかりです。
◆
日本で一番人気のあるサッカーチームは日本代表。
しかし、ナショナルチームが一番人気というのは世界的に見て、とても稀なケースらしいです。
スペインでは、
スペイン代表よりもバルサやレアルの方が人気があるし、
バルサやレアルがどんなに強くて、世界的に人気のあるチームでも
バスク地方の人はアスレティック・ビルバオを熱狂的に応援する。
これは、「国<民族」の一つの証。
日本では、すぐに横綱の出身が日本かどうかが話題になるし、
カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞を
日本としてどのように見なすかを考えてしまう。
良い悪いではなく、
それは世界から見ると、とても珍しく奇妙なことなんだなぁ
ってことを実感値として少しわかった気がします。
◆
最後に、英和辞典で【Nation】という単語を引いてみました。
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[名詞]
- [通例the nation; 集合的に] (政府の下で共通の文化・言語などを有する)国民
- (1 の国民から成る)国家
- 民族、種族
- a(北米インディアンの)部族 b(北米インディアンが政治的に結成する)部族連合
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国民・国家と民族・部族の両方の意味を持っているんですね。
今、知ったわけではありませんが、
あらためて見ると「民族」が「国家」と同じ単語で表現されるのは
非常に興味深いです。
だから、何? こんなこといろんな人が言っているよ!
という話ですが、知識としてではなく体験として知った世界標準のお話でした。