#167
横ノリ系が教えてくれた五輪精神
冬の北京オリンピックが閉幕しました。
日本は、4年前の平昌を上回る18個のメダルを獲得。
昨夏に開催された東京オリンピックに続き、私たちを興奮させてくれました。
ところで、皆さんは國母和弘という名前を覚えているでしょうか?
2010年バンクバーオリンピックに出場したスノーボード・ハーフパイプの選手。
メダルを期待される実力を持っていましたが、私たちの記憶には、
日本人が好まない格好で現地入りし、
記者会見では「チッ、うるせーなー」「反省してまーす」と軽口を叩いて
マスコミと国民にフルボッコにされた人物として残っています。
あの時は私も
「自己主張したい気持ちはわかるけど、あの格好はないよな」
「こういうことするからストリート系は煙たがられるんだよ」
と國母選手に対して、否定的に見ていました。
しかし、2022年の北京のオリンピックでは、12年の時を経て、
國母選手をルーツに持つ横ノリ系アスリートに
大切なことを教えてもらうことになりました。
◆
私にとって、今大会のベストは、
スノーボード・女子ビッグエアで岩渕麗楽選手がメダルを掛けて挑戦した
「トリプル・アンダー・フリップ(斜め軸の後方3回宙返り)」と
その後に、他国の選手が彼女に駆け寄り、抱擁したシーンです。
このシーンは、IOCのバッハ会長も、
「忘れられない瞬間」として挙げていましたし、
アスリートや解説者、スポーツ好き芸人等も
感動シーンとして取り上げていたので、
「私も好き」という方が多いと思います。
◆
今回のオリンピックは、
ロシアの女子フィギュアスケート選手のドーピングや
スピードスケート・ショートトラック競技において
開催国である中国に有利に働いたと言われる疑惑の審議判定、
判定結果を巡る中韓の中傷合戦など、
メダル獲得による国威発揚に熱中し過ぎた残念な出来事が多い大会でした。
◆
五輪憲章では、
『オリンピズムの根本原則』に以下のように書いてあります。
オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、
バランスよく結合させる生き方の哲学である。
オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、
生き方の創造を探求するものである。
その生き方は努力する喜び、良い模範であることの教育的価値、社会的な責任、
さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする。
さらには
スポーツをすることは人権の1つである。
すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、
オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。
オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。
とも記されています。
◆
オリンピズムは「生き方の哲学」であり、「生き方の創造を探求するもの」
だとすると、ドーピングも、
転倒する際にライバルを巻き添えにする行為もすべて「生き方の哲学」
引退するレジェンドに忖度し、
数時間後の金メダリストの完璧な競技に不可解な採点をするのも「生き方の哲学」
オリンピックレコードと2大会連続の金メダルを目前に転倒し、泣きじゃくる姉に慮り、
「前半に私がもっとできることがあった」とコメントするのも「生き方の哲学」
私たちが見ていたものはすべて、各国の、
アスリート一人ひとりの「生き方の哲学」なんですね。
◆
メダルにこだわるのは良くないと思いながら、
自国選手の結果に一喜一憂してしまう私に、
あらためてオリンピックの精神を考えるキッカケを与えてくれたのが、
岩渕選手のシーンでした。
岩渕選手をはじめとする横ノリ系のアスリートたちが見せてくれたシーンには、
12年前、二十歳そこそこの青年をアピアランスと会見の言葉だけを切り取って
フルボッコにした自称「良識ある大人」に対して、
物事の本質を見極める大切さを教えてくれた気がします。
◆
スポーツに勝敗はつくけれど、優劣をつけるためのものではない。
当たり前だけれども、すぐにどこかに置き忘れてしまう本質。
スポーツは、
己の成長を実感するものチャレンジを楽しむもの、
努力する喜びを知るもの、
敵味方に関わらず人をリスペクトする精神を育むもの。
そんな当たり前で、でも忘れてはいけない大切なことを
横ノリ系ウィンターアスリートたちに教えてもらった北京オリンピックでした。
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