#57
IT’S UP TO YOU
9月29日(土)にNHK総合TVで放映された、
『矢沢永吉63歳メッセージ~カリスマ40年目の夏~』は、
閉塞した日本社会(教育、政治、経済全般)に向けた、強烈なメッセージが発せられていると
感じました。
番組では、今年8月にリリースされた永ちゃんの新曲、“IT’S UP TO YOU”にからめて、
有働アナウンサーが、こんな質問を投げかけます。
「今は、NO.1とか目指すのはカッコ悪くて、頑張っていることやその人の存在自体が素晴らしい。
だから、順位なんてつける必要なないという風潮になっていますが、矢沢さんはどう思いますか?」
永ちゃんは、「そういう考えをする人もいるのでしょうね。それはそれで否定しないし、
結構だと思うんですけど、僕には、その考えは全くわからないです」と答えました。
「NO.1じゃなくてもいい」とのメッセージには、欲求には際限がない。
また、他者と比較して自分を卑下しないようにとの意味が込められているのだと私は理解し、
ある意味賛同もしています。しかし、その前提に、「NO.1じゃなくてもいい」の本質を頭だけで
理解するのではなく、実体験からの体得が不可欠だと考えています。
金銭欲求や物質欲求を満たすために必死努力し、そして欲しいものを手に入れていく。
そんなことを繰り返していくうちに、欲求には際限がないことを知る。お金や物よりも、
もっと大切なモノがあると悟る。
このプロセスを経ずに、「NO.1じゃなくてもいい」を頭でだけ理解していると、
達成の喜びを知らないままに、競争を避けるようになると思えるのです。
有名なマズローの欲求理論では、
人間は、“生存の欲求”“安全の欲求”“親和の欲求”“自己顕示の欲求”“自己実現の欲求”の
5つの段階をステップアップしながら成長すると論じられています。
この5つの段階をステップアップしていく経験を一つずつ積まずに、いきなり“自己実現の欲求”を
満たす生き方をせよと言われても、どうしていいのかわからないでしょうし、この高次元の欲求を、
自分は満たせているのかどうかの判断もできないでしょう。
こんな父と息子の小話があります。
父 :いつもゴロゴロしていないで、しっかり勉強しなさい!
息子:お父さん、何でしっかり勉強しなきゃいけないの?
父 :だからお前はわかっていないって言うんだよ。そんなの決まっているだろう!
しっかり勉強すれば、いい高校に入れるからだよ!
息子:へぇ~。そうなんだ。ところで、なんでいい高校に入らなきゃいけないの?
父 :お前は、本当にどうしよもないね。
いい高校に入れれば、いい大学に行けるからに決まっているだろう!
息子:ふぅ~ん。で、なんでいい大学に行かなきゃなんないの?
父 :まだ、わからないのか!
いいかい。いい大学を卒業できれば、いい会社に入れるからだよ!
息子:そうなんだ。で、なんでいい会社に入らなきゃいけないの?
父 :お前には、ほとほと呆れるね。
いい会社に入れれば、将来、寝て暮らせるからだよ!
息子:だから俺は今、ゴロゴロ寝て暮らしているんじゃないか!
永ちゃんは、「物欲を追いかけて何が悪い。俺は、地位も名誉も金も物も欲しい」と、
デビュー当時から一貫して公言しています。この主張は、今も変わっていませんが、
今の永ちゃんは、物欲、金銭欲を満たすために、ライブツアーを行っているのでしょうか。
そうとう以前に、これらの欲求を超えた自己実現欲求を持って、音楽活動をハードに
続行しているはずです。
新曲“IT’S UP TO YOU”の意味は、“あなたしだい”。
この曲は、“生存”と“安全”の欲求が満たされている日本人に、
“親和”を超えた“自己顕示”の欲求にもっと真剣に向き合うように、訴えているように思えます。
みなさんは、何を自己顕示していきますか?
IT’S UP TO YOU!